セパブルとは?ファットブルとの違いと01ゲームの戦術|ファットブルで9ダーツを狙う理由

ダーツのルールで使われる「セパブル」とは、
ブルの得点を
インナーブル=50点、アウターブル=25点
と分けて判定する方式のことです。

これに対して、ソフトダーツで一般的な「ファットブル」は、
インナー・アウターの区別がなく、
ブルに当たればどこでも50点として扱われます。

セパブルは主にスティールダーツやPERFECT男子、
JAPAN(偶数ステージ)で採用されており、
ファットブルとは得点の考え方や攻め方が大きく異なります。

本記事では、セパブルの意味とルールを軸に、
ファットブルとの違いやゲームへの影響を、
初心者にも分かりやすく解説します。

セパブルとは?

422737 / Pixabay

セパブルとは「セパレートブル(Separate Bull)」の略称で、
ブルをインナーブル50点/アウターブル25点
分けて判定するゲームルール(試合フォーマット)のことです。

このルールは、01ゲームにおいて非常に重要で、
どこを狙うか、どの得点を優先するかといった
ゲームの攻め方に大きく影響します。

スティールダーツではセパブルが標準ルールですが、
ソフトダーツでは、ブルに当たればどこでも50点となる
「ファットブル」が主流です。

※PERFECT男子、JAPAN(偶数ステージ)、
 2025年のSUPER DARTSではセパブルが採用されています。

そのため、初心者が実際のゲームで
セパブルを採用したフォーマットでプレイする機会は、
多くないかもしれません。

しかし、プロの試合を観戦する場合や、
ソフトダーツからハードダーツへ移行する際には、
セパブルのルール理解が欠かせません。

セパブルが適用されている試合は?

スティールダーツ(ハードダーツ)では、
セパブルが標準ルールとして採用されています。

一方、ソフトダーツの場合は、
大会やツアーによってゲームフォーマットが異なる可能性があるため、
各大会のルール規定を参照するのが最も確実です。
参考までに、代表的なプロツアーの例を挙げます。

PERFECT

セパレートブルの表記が無い場合は、アウターブル・インナーブル共に50点、セパレートブルの表記がある場合は、アウターブルは25点であり、インナーブルは50点となる。
競技規定 | PERFECT プロソフトダーツトーナメント

実際上、2018年現在で、男子がセパブル、女子がファットブルです。

JAPAN

(JAPANは性別制限がありません。2024年まで鈴木未来選手が参戦しておりましたね。)

・奇数STAGE(STAGE1,3,5…17)ではファットブルとし、Open In/Master Outが採用されるものとします。 ・偶数STAGE(STAGE2,4,6…18)ではセパレートブルとし、Open In/Master Outが採用されるものとします。
大会概要|SOFT DARTS PROFESSIONAL TOUR JAPAN OFFICIAL WEBSITE

JAPANレディース

ファットブルです。

セパブル/ファットブルの01ゲームの攻め方

01ゲームでは、
どのナンバーから攻めなければならないという決まりはありませんが、
得点効率の観点から、ある程度の定石が存在します。

ここでは、セパブルとファットブルそれぞれの場合について、
一般的な攻め方を紹介します。

セパブルの場合

セパブルでは、20ナンバーを狙うのが基本的な定石です。
ただし、このセオリーは絶対ではありません。
例えば、JAPANで最年長優勝を果たしたポール・リム選手は、
個人の好みやシュート率を考慮し、
19ナンバーから削っていくスタイルを取ることも知られています。

ダーツボードにおける主な高得点エリアは、
得点の高い順に以下の通りです。

  • T20(60点)

  • T19(57点)

  • T18(54点)

  • T17(51点)

  • DBULL(50点)

インナーブル(50点)よりもトリプルナンバーの方が得点が高く、
また、面積的にもインナーブルよりトリプルナンバーの方が広いため、
得点効率の面でも有利です。

そのため、セパブルでは
トリプルナンバーから攻めていくのが基本となります。

前のダーツが邪魔になる場合や、
アレンジ(残り点数の調整)の都合によっては、
19や18など、より小さなナンバーを狙う場面もあります。

※アレンジとは、01ゲームでちょうど0点に上がるために、
残り点数を調整するテクニックのことです。

ファットブルの場合

ファットブルでは、ブルで得点していくのが基本的な定石です。

ソフトダーツのボードでは、
男子トッププロであっても、
トリプルナンバーのヒット率は40%前後とされています。
一方で、ブルのヒット率は80%前後と高く、
安定して得点を重ねることができます。

そのため、得点効率の面では、
ブルから攻めていく戦略が最も合理的といえます。

ただし、01ゲームは先行が圧倒的に有利なゲームでもあります。
例えば、先行がパーフェクトを達成した場合、
後攻は理論上、勝つことができません。

そのため、ゲーム展開によっては、
相手より早く上がり目を作る必要がある場面もあり、
後攻があえてT20から攻めていくケースも存在します。

また近年では、女子選手のレベル向上が顕著です。
501ゲームにおいて、ブルパーフェクトでは
4ラウンドを要してしまうケースも増えており、
3ラウンドでの上がりを目指して、
2ラウンド目からトリプルナンバーに
チャレンジする選手も目立ち始めています。

501ファットブルゲームで達成された9ダーツ

次に、鈴木未来選手が
JAPANレディースの舞台で達成した
9ダーツゲームをご紹介します。

日本の女子ダーツシーンにおいて、
公式戦で9ダーツが成立した例は極めて少なく、
少なくとも筆者の知る限り、
この試合は非常に貴重なケースだといえるでしょう。

JAPANレディースの試合形式は、
501・ファットブル・マスターアウトで行われます。

前章で説明した通り、ファットブルでは
ブルで得点していくのが定石です。

501をブルで攻めた場合、
以下が最速のフィニッシュとなります。

1R ⇒ 150(残351)
2R ⇒ 150(残201)
3R ⇒ 150(残51)
4R ⇒ 51(フィニッシュ)

このような進行を、ブルパーフェクトと呼びます。

先行にブルパーフェクトを決められると、
後攻が同じペースで進んだとしても、
理論上、勝つことはできません。

では、上記動画において
後攻の鈴木未来(すずき・みくる)選手
どのような攻め方を選択したかというと、以下の通りです。

1R ⇒ 150(残351)
2R ⇒ 180(残171)
3R ⇒ 171(フィニッシュ)

いわゆる9ダーツです。
あっぱれですね。

レベルの高いプロの試合では、
501のブルパーフェクトが出ること自体は
それほど珍しくありません。

しかし、9ダーツとなると、
まずお目にかかることはありません。

では、なぜこのようなゲーム展開になったのでしょうか。

理由は、先行の吉羽プロが、
2ラウンド目までブルパーフェクトペースで
進んでいた点にあります。

2ラウンド終了時点で、
残り201となった吉羽プロには、
この時点では上がり目がありません

一方、後攻の鈴木プロは、
2ラウンド目に180(60→60→60)を選択したことで、
3ラウンド目に171(60→60→51)という
上がり目を作ることができました

先行が有利とされる01ゲームにおいて、
相手よりも早いラウンドで上がり目を作ることは、
非常に重要な意味を持ちます。

その点で、鈴木プロが選択した攻め方は、
極めて合理的だったと言えるでしょう。

では、先行の吉羽プロも、
2ラウンド目で180を狙い、
9ダーツを目指せばよかったのではないか、
と思われる方もいるかもしれません。

しかし、トッププロであっても
トリプルナンバーのヒット率は、
良くて50%程度です。

仮に、成功率50%のトリプルを
6本連続で成功させる確率を考えると、
その確率は 1/64 になります。

このように、極めて低い成功確率を前提に、
得点効率の低い60点を狙い続けるのは、
現実的には取りづらい選択肢なのです。

もっとも、確率が低いからといって、
何もしなければ先行が勝つ確率が上がるだけであり、
相手にプレッシャーを与えることもできません。

そのため近年の女子選手の試合では、
9ダーツトライ――すなわち、
2ラウンド目にブルではなく
トリプルナンバーを狙いにいく選択――
が増えてきている点にも注目すべきでしょう。

これは、単なる博打ではありません。
女子選手全体のレベルが向上したことで、
以前であれば成功率が低く、
リスクの大きい選択肢と捉えられていた戦術が、
現実的な勝ち筋の一つとして成立し始めているのです。

かつてのレベルでは、
9ダーツトライは再現性に乏しく、
リスクの高い戦術でした。
そのため、相手のミスを待つ
(=ブルパーフェクトをさせない)
という選択肢も、十分に合理的な戦術でした。

しかし現在では、
先行有利という01ゲームの構造を理解したうえで、
勝率を押し上げるための戦術的判断として、
9ダーツトライが選択される場面も
増えてきています。

まとめ

セパブルとファットブルは、
単にブルの得点が異なるだけのルールではなく、
01ゲームにおける攻め方そのものを大きく変える要素です。

セパブルでは、
インナーブルよりも高得点かつ面積の広い
トリプルナンバーを狙うことが合理的であり、
ファットブルでは、
成功率の高いブルで安定して得点を重ねることが
基本的な定石となります。

一方で、ルールや定石が同じであっても、
選手のレベルや試合環境が変化すれば、
有効とされる戦術も変わっていきます。

鈴木未来選手がJAPANレディースの舞台で見せた
9ダーツゲームは、
単なるスーパープレーではなく、
女子ダーツ界全体のレベル向上を背景に成立した、
合理的な戦術判断の一例
だったと言えるでしょう。

かつては博打的と見なされていた選択肢が、
環境の変化によって現実的な勝ち筋へと変わる。
その過程こそが、
ダーツという競技の面白さであり、
プロの試合を観戦する醍醐味でもあります。

ルールを知り、
その先にある戦術や判断の意図を読み取ることで、
ダーツ観戦はより深く、
より面白いものになるはずです。