日本のダーツ業界の刺青(タトゥー)事情 | もはや独自の文化と言っていい

ども、武器商人です。

いつも通り軽いノリではじめますが、今日は過去一番レベルで真面目な記事を書こうと思っています。僕がダーツブログをはじめたのは2017年。そして今回扱う「日本のダーツ業界における刺青(タトゥー)事情」は、実はブログを始めた当初からずっと興味を持っていたテーマでした。

これまでにも何度か記事を書いてきましたが、正直に言うと「書いて後悔したもの」や「もっと書き方を工夫すべきだったもの」もあります。センシティブなテーマだからこそ、どう表現するべきかが分からず、消すに消せない思い入れだけが残っていました。

ただ、ようやく自分の中で考えがまとまりました。そこで過去の記事は一度すべて削除し、今回、この1本に集約することにしました。ここに、僕が8年間ダーツ界を見てきて感じたこと・考えてきたことをすべて置いていきたいと思います。

少し読みづらい部分があるかもしれませんが、僕自身の考え方の変遷を示すためにも、今回はあえて時系列で書かせてください。

2017年ごろ ― アームサポーターの中に隠されていたもの

ダーツブログを始めてすぐの頃、イベントに参加したときにひとつ気づいたことがありました。ダーツはプロとの距離が近いということもあって、会場を見渡すとアームサポーターをしている人がとても多かったんです。肘を守るために付けている人もいれば、ファッションとして取り入れている人もいます。

ただ、どう見ても“別の理由”で付けているように見える人たちもいた。ほどなくして、その理由が分かりました。刺青(タトゥー)を隠すためにアームサポーターをしている人が多いという事実です。

今でこそ価値観が急速に変わり、タトゥーは珍しいものではなくなりつつありますが、10年近く前の地方では、まだまだ“特別なもの”として扱われていました。それはそれで時代の流れとして理解できるのですが、当時の僕は疑問でした。

「なぜ隠さなければならないんだろう?」

銭湯みたいに“入場禁止のルール”でもあるのか?
そう思って調べてみたところ、PERFECTにもJAPANにも、タトゥーを明確に禁止する規定はありませんでした。

ただし、両団体とも服装規定(ドレスコード)が存在します。
その中で、タトゥーをどう扱うかについては明確ではなく、

  • ドレスコードの一部として“暗黙のルール”になっているのか

  • あるいはスポンサーのイメージに合わせた“自主規制”なのか

そのあたりに強い関心を持ったのを覚えています。

2018年11月ごろ―岩田夏海選手の投稿が目に入った

2018年の暮れごろ、当時まだ若手だった岩田夏海選手(現在ではダーツ界を代表するプロの一人)の投稿が目に留まりました。これは、Xの投稿を引用する形で埋め込みます。

この件について記事にしたところ、Google検索経由で定期的に読まれるようになりました。個人的にも強く興味を持っていたテーマだったため、当時はかなりの熱量で文章を書いてしまった記憶があります。ただ、今になって振り返ると、センシティブな内容を軽い気持ちで扱ってしまったのは失敗だったと反省しています。

その記事は今回削除しますが、当時の考察の一部はここに改めて整理して書いておきます。

僕が言いたかったのは、ダーツの発祥はイギリスであり、本場ヨーロッパでは選手が刺青(タトゥー)を入れていることなど珍しくもないという事実です。「ここは日本だから違う」と言われるかもしれませんが、ダーツの神様フィル・テイラーが日本に来たときでさえ、堂々とタトゥーを見せてプレーしている。

つまり、“日本だけタトゥーを隠す文化って、ダブルスタンダードではないか?”

当時の僕は、そう言いたかったわけです。

そうして、次の話にも続いて来るのですが、仮に日本の選手が海外の大会に出場するときはわざわざ隠すのか?という疑問も残りました。

2019年12月ごろ―山田勇樹選手がPDCチャンピオンシップに出場

それから約1年後、当時PERFECTのトップ選手だった山田勇樹選手が、世界最高峰のスティールダーツ大会であるPDCワールドチャンピオンシップに出場しました。実は僕自身、山田選手の腕にはかなり大きめの刺青が入っていることを知っていました。しかし、本人が日本国内では隠している以上、その事実を僕が公に書くべきではないと判断し、胸の内にしまっておきました。

ところが、PDCの舞台で山田選手は刺青(タトゥー)をまったく隠さずに試合に臨んでいました。その姿を見て、山田選手は日本と海外のダーツ文化の違いを正しく理解し、それぞれの文脈に合わせた振る舞いをされているのだと感じました。あくまで当時の僕自身の解釈ではありますが、すごく腑に落ちるものがありました。

もちろん、これは2019年当時の話です。文化というものは時代とともに変化しますし、「今どうすべきか」という議論とはまた別の問題です。そしてあくまで僕個人の見方に過ぎません。

【参考】自己表現として刺青(タトゥー)が保護されるという判決が出た話

少し脱線しますが、ここで文章に休憩を入れます。

実は近年、刺青(タトゥー)に関する裁判もいくつか起こされており、以下は、僕が興味深いと感じた大阪高裁平成27年10月15日判決の一部です。

刺青(タトゥー)が「自己表現として憲法上の保護に値する」という視点と、一方で「職務内容によっては考慮要素となり得る」という現実の両方を示した判断です。

 次に,本件では,一般的に入れ墨をしていることが職務上許されないとされたわけではないが,第一審及び控訴審ともに,入れ墨の部位や内容とその職務内容によっては,入れ墨の有無を人事配置上考慮することは許されるという判断を前提としている。したがって,民間の労働者の場合にも,調査の目的,必要性,調査の方法等が社会通念上妥当な方法で行われている限り,入れ墨の有無に対する調査協力義務が認められることとなる。また,懲戒処分だけでなく,解雇,昇進,昇格,降格,配転命令などの有効性判断においても,入れ墨の部位や内容等によっては,その考慮要素となることが許される可能性が出てくる。
このように,第一審及び控訴審の判断は,入れ墨をしているという情報を憲法上保護に値する情報として保護し,その一方で,入れ墨をしていることを人事配置上考慮することも許される場合があるとしている。入れ墨を自己表現の一つとする文化が世界の各地で定着しており,わが国においても,若者を中心に同様な意識が広まりつつある。入れ墨をしているという情報が憲法上保護されるものとして,これが,職場において,どこまで確保されるものなのか,今後も,注目していく必要があると思われる。
出典:https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2016_04/p50-51.pdf

ただ、ここで注目してほしいのは、今回の判決が「公務員」に関するものだという点です。公務員という“お堅い職業”においても、これだけのレベルで刺青(タトゥー)が自己表現として議論されているわけです。

そう考えると、完全な自由業であるダーツプロについても、同じ流れの中で議論されてしかるべきだと僕は思います。

【参考】井岡一翔選手のタトゥー問題

ここでダーツとは別の競技の例をひとつ挙げます。
ボクシング界では、2020年末に“井岡一翔選手のタトゥー問題”が大きな話題になりました。

井岡選手は、背中や腕に大きな刺青(タトゥー)を入れた状態で試合に出場しました。しかし、これより前の試合では、ファンデーションで隠してリングに上がっていたとも報じられています。つまり、日本ボクシングコミッション(JBC)の「タトゥー露出禁止」という内規に合わせるために、本人が“日本文化に寄せていた”時期があったわけです。

ところが2020年の試合では、それをあえて隠さずに出場した。
するとJBCは処分検討を発表し、大きな社会問題へと発展しました。

このとき多くの専門家やファンからは、
「タトゥーは自己表現であり、憲法上の人格権に関わる」
「国際競技でタトゥー禁止は不合理だ」
といった声が上がり、最終的にJBCは規定を見直して
タトゥーを理由とした処分を行わない方針へと変更しました。

井岡選手のケースは、日本のスポーツ界が抱える
“ローカル文化として隠す圧力”
“世界基準としての当たり前”
が衝突した象徴的な出来事だったと思います。

そしてこれは、日本のダーツ界のタトゥー文化にもそのまま重なります。
海外ではタトゥーは完全に一般的。
日本だけが、昔ながらのローカル文化に縛られている。

井岡選手の例は、刺青(タトゥー)に対する価値観が日本全体で揺れ動き始めている兆候として、非常に示唆に富んでいると感じています。

2023年9月ごろ―ギャル好きダーツブロガー爆誕の裏側

2023年ごろ、なぜか僕がX(旧Twitter)上で注目を浴びてしまった時期がありました。ギャル好きとして話題になったように見えますが、実のところ理由はまったく別にあります。

仲松みずきさんの背中や腕に広がる刺青(タトゥー)が本当に芸術的で、実際に交流してみると人柄やキャラクターもとても魅力的だったから、積極的に絡んでいたのです。

当時の詳しい様子は、ここでは書きません。すでに別の記事にまとめてありますので。

ダーツブロガー生命を賭けPERFECTの黒ギャル「仲松みずき」プロに凸ってきました
ご無沙汰しております。武器商人(@BukiDartsBot)です。私は何年か前まではダーツブロガーと自信を持って名乗っておりましたが、今やただのギャル好きと言われております。そのキッカケとなった僕の推しである仲松みずきプロ。意図せずTwitterでバズり、意図せずTwitterで...

翌年には、仲松みずきさんにもスポンサーが付き、本格的にプロとして活動されていました。(“しっかり”と言っていいのかは分かりませんが、少なくとも外から見える形での活動はされていました。)

ちなみに、首にも刺青(タトゥー)が入っていましたが、PERFECT側から特別に指摘があったり、隠すように指示があったりという情報は、少なくとも僕の知る限りありませんでした。

【2024】仲松みずきプロのPERFECT選手名鑑が無いので代わりに書いたぞ...
ども、武器商人(@BukiDartsBot)です。先日仲松みずきプロに凸ってきた以下の記事のアクセス数がビックリするほど多かったのです。ホント、みんなギャルダーツが好きなんですね!ダーツブロガー生命を賭し「仲松みずき」プロに凸ってきました | 武器商人@ダーツのブログただのギャル...

おそらく、団体側としてもそこまで問題視していなかったのだと思います。実際、仲松さんは選手インタビューにも呼ばれていましたし、永田理事長も「かっこいい」と評価されていたという話も耳にしました。全体として、好意的に受け止められていたと解釈しています。

https://x.com/mizuki08166/status/1781884969163661473

2023年10月ごろ―岩田夏海選手が刺青(タトゥー)を試合中にも露出しはじめる

だいたい同じ時期に、先ほど名前を挙げた岩田夏海選手が、JAPANレディースの試合中にも刺青(タトゥー)を露出するようになっていきました。というより、試合中に自然と見える位置にタトゥーを入れたと言ったほうが正確かもしれません。

さらに、その少し前には、岩田選手がトリニダードの最上位ブランドである「TRiNiDAD undisputed」と契約されています。この件については、後ほど詳しく触れる予定です。

2024年4月ごろー浅田斉吾選手も刺青(タトゥー)を入れたとの噂が

JAPAN 2024 STAGE2香川あたりの決勝動画を観ると、半そでから覗く腕に、浅田斉吾選手の刺青(タトゥー)がチラリと見えるのを確認しました。本人は特に何も言及していませんが、隠している様子もありません。

その後の試合映像を見る限り、刺青(タトゥー)の面積が徐々に広がっているようで、それに合わせてアームサポーターを付けている場面も増えてきました。前述の山田勇樹選手と同じく、日本の試合では隠し、海外の試合では出す、そんなスタイルになっていくのかもしれません。

岩田夏海選手の例を見るかぎり、刺青(タトゥー)の露出は以前より許容されつつあるようにも思えます。ただし、問題になるのは“デザインによる印象”なのかもしれません。岩田選手のタトゥーは比較的かわいらしく、お洒落な雰囲気がありますが、山田選手や浅田選手の刺青(タトゥー)は、どちらかというと重厚で、やや威圧感のあるタイプです。

そのあたりの印象の違いも、受け取られ方に影響している可能性はあると思います。

TRiNiDAD Undisputedは刺青(タトゥー)に寛容なのではないか?

岩田夏海選手、山田勇樹選手、浅田斉吾選手と挙げてきましたが、ほかにも刺青(タトゥー)を入れている選手はたくさんいます。ただ、その多くが日本国内ではしっかり隠している様子が見られます。むしろ、隠さなくなった三選手のほうが例外的だという印象です。

そして、この三選手にはひとつ共通点があります。
全員が TRiNiDAD Undisputed の契約選手であるという点です。

TRiNiDAD Undisputed は、日本国内でも圧倒的な成績を残し、海外挑戦を視野に入れているトップ層のみが契約できるTRiNiDAD最上位ブランドです。彼らは当然、国内だけではなく“世界”を基準にして活動しているはずです。

そのことを踏まえると、TRiNiDAD Undisputed というブランドそのものが、刺青(タトゥー)について日本のローカルな価値観に縛られず、世界基準の文化を前提として選手をサポートしている可能性がある、と感じています。

まとめ(現時点で)

さて、2017年ごろから現在までのダーツ業界における刺青(タトゥー)について、僕自身の観察をもとに流れをまとめてきました。海外と日本の文化の違い、最近の判例や社会の変化、そして急速に移り変わりつつある日本の価値観、それらを、僕が感じたままに整理したつもりです。

今後この分野がどう変化していくのかはまだ分かりません。ただひとつ言えるのは、個性や自己表現をより自然に認めていく方向へ、日本全体が確実に動いているということです。