スポンサーが付いた途端、SNSがつまらなくなるダーツプロは少なくありません。
告知、宣伝、商品紹介、店舗情報。気づけばタイムラインはスポンサー案件ばかり。本人を知りたくてフォローしたはずなのに、見えてくるのは広告ばかりです。
なぜスポンサーを得たはずの選手が、逆に発信力を失っていくのか。今回は若手プロを中心に増えている「早期スポンサー化」という現象から、ダーツプロのスポンサーとSNS戦略について考えてみます。
宣伝が多すぎるダーツ界のタイムライン
最近、X(旧Twitter)のタイムラインを見ていると、イベントの告知やグッズ販売、スポンサー企業の商品紹介など、宣伝を目的とした投稿がかなり増えてきたと感じます。
もちろん、プロとして活動する以上、スポンサーの宣伝やイベントの告知は必要です。それ自体を否定するつもりはありません。
ただ、問題はその「量」です。
選手本人の日常や競技への考え方、試合に向けた取り組みなどを知りたくてフォローしたはずなのに、流れてくるのは告知とリポストばかり。これでは選手をフォローしているのか、広告アカウントをフォローしているのか分からなくなってしまいます。
なぜ、こんな状況になっているのでしょうか。
「スポンサーを付けたい」というニーズは以前から高い
僕はダーツブログを始めて8年になります。その中でも「ダーツ スポンサーの付け方」といった検索キーワードからの流入は以前から非常に多く、それだけ多くのプレイヤーがスポンサーを付けたいと考えていることが分かります。
スポンサーから支援を受けることで、遠征費や用具代などの負担を減らすことができます。活動の幅も広がりますし、選手として評価された一つの証にもなるでしょう。
そのため、「スポンサーを付けたい」という選手が多いこと自体は、決して悪いことではありません。
ただ、ここ数年でスポンサーを取り巻く状況は少し変わってきたように感じます。
「人気が出たからスポンサーが付く」から「人気が出る前にスポンサーが付く」へ
以前は、スポンサー契約といえば大会で結果を残したり、すでに一定の知名度や人気を獲得した選手が結ぶもの、というイメージが強くありました。
しかし現在では、競技実績だけでなく、SNSのフォロワー数や話題性、キャラクター、ビジュアルなど、「これから人気が出るかもしれない」という期待値を含めてスポンサー契約をするケースも増えています。
ダーツ界隈は男性比率が高いこともあり、特に女子選手ではこの傾向が分かりやすく見られます。
デビュー1年目はスポンサーロゴのない黒いポロシャツで試合に出ていた新人プロが、2年目にはユニフォームがロゴだらけになっている。そんな光景も珍しくなくなりました。
つまり、
「人気が出たからスポンサーが付く」から、「人気が出る前にスポンサーが付く」へ。
スポンサー獲得のタイミングそのものが前倒しになっているのではないか、と僕は考えています。
そして、ここに今回の記事で取り上げたい「早期スポンサー化の罠」があります。
若手ダーツプロが陥る「早期スポンサー化の罠」
問題なのは、スポンサーが付くこと自体ではありません。
問題なのは、選手本人のブランドがまだ確立していない段階で、企業や店舗の宣伝という役割まで背負ってしまうことです。
「自分はどんな選手なのか」「何を発信していくのか」「どんな人に応援してもらいたいのか」といった部分が固まっていない状態で、スポンサーの商品紹介やイベント告知が次々と入ってくる。
その結果、自分自身の発信よりもスポンサー関連の発信が多くなってしまいます。
一方、スポンサー側も必ずしもSNSマーケティングやブランディングに長けているとは限りません。
「人気のある選手に投稿してもらえば宣伝になる」「フォロワーが多い選手にリポストしてもらえば商品が売れる」という発想のまま、選手に宣伝を求めているケースもあるでしょう。
その結果、選手もスポンサーもブランディングが中途半端なまま、とにかく宣伝投稿だけがタイムラインに増えていく。
これが僕の考える「早期スポンサー化の罠」です。
ダーツプロは「宣伝のプロ」ではない
ダーツプロは特殊な存在ではありますが、本質的にはスポーツ選手です。
本来の仕事は競技で結果を残すことであり、マーケティングや広告運用が本業ではありません。
当然、多くの選手はマーケティングや広告について専門的な教育を受けているわけでもありません。
それにもかかわらず、スポンサーが付いた瞬間から商品を紹介し、イベントを告知し、店舗を宣伝し、自分自身までブランディングしなければならなくなる。
つまり、宣伝のプロではない人たちが、突然「宣伝する側」に立たされているわけです。
さらに選手側からすれば、スポンサー企業の利益を最大化することよりも、ツアー遠征費や用具などの経済的な支援を得ることがスポンサー契約の大きな目的になっている場合もあります。
すると、どうしてもスポンサー関連の投稿は「やりたい発信」ではなく「やらなければならない発信」になっていきます。
義務的な宣伝はアカウントをつまらなくする
誤解のないように書いておくと、早い段階でスポンサーが付く選手には、それだけの理由があります。
外見やキャラクターに魅力がある。競技に真面目に取り組んでいる。将来性がある。SNSでの発信を頑張っている。
スポンサー側から「応援したい」と思われるだけの魅力がある選手だからこそ、スポンサーが付くわけです。
ところが、真面目な選手ほどスポンサーへの責任を感じます。
スポンサーの投稿を毎回リポストする。新商品が出れば紹介する。イベントがあれば告知する。そしてテンプレート的な文章を添える。
非常に真面目です。
でも、SNSの投稿としては面白くない。
新人のうちは「新人なのに頑張っている」「若いのにしっかりしている」と評価されるかもしれません。しかし、同じような投稿が半年、1年と続けば、見る側も慣れてしまいます。
やがてアカウント全体が、本人のアカウントではなく企業の宣伝botのように見えてしまう。
試しに、スポンサーが付いているダーツプロのXアカウントを何人かランダムに見てみてください。
通常の投稿と宣伝投稿で、どちらの反応が大きいでしょうか。
宣伝投稿ほど、いいねやリプライ、インプレッションが伸びていないケースは珍しくないはずです。
なぜ宣伝投稿ばかりではXが伸びないのか
理由はシンプルです。
多くの人は広告を見るためにXを開いているわけではないからです。
好きな選手が今日どんな練習をしたのか。試合で何を感じたのか。普段どんな生活をしているのか。何を考えている人なのか。
そうした「人間の部分」を見たいからフォローしています。
ところが、毎日のように「この商品おすすめです!」「○日にイベントやります!」「スポンサー様の投稿をリポストしました!」という情報ばかり流れてくれば、次第に読み飛ばすようになります。
読み飛ばされる投稿が増えれば、当然いいねやリプライも減ります。場合によっては通知を切られたり、ミュートされたり、最終的にはフォローを外されたりするかもしれません。
そして一番怖いのは、宣伝ではない投稿まで読まれなくなることです。
「あの人は宣伝ばかりだから」と認識された瞬間、投稿内容を確認する前に読み飛ばされるようになります。
つまり、宣伝すればするほど、肝心の宣伝すら届かなくなる可能性があるわけです。
フォロワーの大半は「顧客」ではない
ここでもう一つ考えなければならないのが、「フォロワー=顧客ではない」ということです。
例えば、仮にフォロワーが1,000人いる選手がいるとします。
その中で毎試合結果をチェックしてくれるようなコアなファンが50人、実際にグッズを購入したりイベントへ足を運んだりする人が10〜20人だったとしましょう。
残りの900人以上は、「ダーツプロだから」「大会で見たことがあるから」「知り合いだから」といった比較的薄い理由でフォローしている可能性があります。
もちろん、その900人の中から将来的にファンになってくれる人もいるでしょう。
むしろSNSの役割は、その「なんとなくフォローしている人」を少しずつファンに変えていくことだと僕は考えています。
ところが、まだファンになっていない人たちに対して宣伝を繰り返してしまう。
これでは順番が逆です。
まず興味を持ってもらう。人柄を知ってもらう。応援したいと思ってもらう。その先に、商品購入やイベント参加があります。
まだ関係性ができていない段階から「買ってください」「イベントに来てください」と言い続ければ、将来ファンになってくれるかもしれない人まで遠ざけてしまいます。
僕自身がXで意識していること
ここまで偉そうなことを書いてきたので、僕自身の話もしておきます。
僕のXのタイムラインを見てもらえば分かりますが、宣伝目的の投稿は全体の1割にも満たないと思います。
基本的に意識しているのは、「フォロワーが見て楽しめるか」です。
リプライや引用が生まれるように投稿の構成を考えたり、会話のきっかけになるような話題を出したりしています。
投稿に興味を持った人がプロフィールへ飛び、過去の投稿まで読んでくれれば、それだけ僕という人間を知ってもらう機会が増えます。
その結果として、普段の投稿もある程度安定して見てもらえるようになる。
……と、ここまで調子に乗って書いてきましたが、僕もいろいろやってきました。
意図的ではないにしろ炎上商法っぽいことをやったり、せっせとまとめ記事を書いたり、運営団体にいろいろ言ったり、ギャル好きになったり、女王様の下僕になったり……言い出したらキリがありません(笑)
ただ、一つだけ軸はブレずにやってきました。
今にして思えば、僕がやってきたことは全部**「ゲリラマーケティング」**だったのだと思います。
特別ビジュアルが良いわけでもない中年男性が、資金も人員もほとんどなく、強力な後ろ盾もない状態で、影響力のあるプロ選手たちに埋もれず情報発信を続ける。
何の戦略もなく戦ってきたわけではありません。
本を読んで勉強し、実際に投稿して反応を見て、失敗して、またやり方を変える。まるでゲリラ戦のように試行錯誤しながら生き残ってきました。
今回の記事も、そんな経験をもとに書いています。
解決策はSNSの外に「キラーページ」を作ること
では、スポンサーの宣伝をしながら、自分自身の発信も守るにはどうすればいいのでしょうか。
僕の考える解決策はシンプルです。
SNSの外に「キラーページ」を作ることです。
ここでいうキラーページとは、自分に関する情報やスポンサー、商品の購入先、イベントの申し込み先などを一つにまとめたページのことです。
そして、そのページへのリンクをXのプロフィールや固定投稿に置いておく。
僕は、Xを**「人に覚えてもらう場所」**だと考えています。
逆に、商品やイベントを**「売る場所」**は別に作る。
この二つを分けるわけです。
例えばLit.Linkなどのノーコードサービスを使えば、専門的なWeb制作の知識がなくても簡単なポータルページを作れます。
掲載する情報も、それほど多くなくて構いません。
- 自己紹介やプロフィール
- 競技実績
- スポンサー一覧
- 使用しているダーツ用品
- グッズなどの販売ページ
- イベント情報
- 問い合わせ先
これくらいで十分です。
そしてXでは、競技に関する話、人柄が伝わる投稿、日常、試合までのストーリーなど、「この選手をもっと知りたい」と思ってもらうための発信に集中する。
興味を持った人はプロフィールを見ます。本当に応援したいと思った人なら固定投稿も見ますし、リンク先まで追いかけてくれます。
そういう人こそ、商品を買ったりイベントへ来たりしてくれる可能性の高いファンです。
宣伝情報を全フォロワーへ毎日のように押し付ける必要はありません。
普段のSNSでは人を集め、興味を持った人だけをキラーページへ誘導する。
「人を集める場所」と「売る場所」を分ける。
これだけでもSNS運用はかなり変わると思います。
宣伝は1割くらいでいい
だからといって、Xでスポンサーの宣伝を一切する必要がないと言っているわけではありません。
新商品が出たとき、イベントが決まったとき、本当に紹介したい商品があるとき。そういうタイミングでは普通に宣伝すればいいと思います。
ただし、普段の投稿まで宣伝で埋め尽くす必要はありません。
僕なら一つの目安として、宣伝投稿は全体の1割程度に抑えます。
残りの9割で自分自身を知ってもらう。
その9割によって「この人の投稿を読みたい」「この選手を応援したい」と思ってくれる人が増えれば、たまに出す1割の宣伝も読んでもらいやすくなります。
短期的には宣伝回数を増やした方が商品名やイベント名を目にする回数は増えるでしょう。
しかし、長期的に選手自身のブランドを育てるなら、情報空間を分けた方が強い。
選手本人のブランドが大きくなれば、結果としてスポンサーに提供できる価値も大きくなります。
スポンサーのために宣伝を減らす。
一見すると矛盾しているようですが、長期的にはその方がスポンサーにとってもメリットがあるのではないでしょうか。
スポンサーは「目的」ではなく「手段」
最後に、一番大切なことを書いておきます。
スポンサーが付くような有望な選手は、何のためにプロとして活動しているのでしょうか。
メーカーのためでしょうか。
スポンサー店舗のためでしょうか。
違いますよね。
自分が選手として成長するため。そして、自分を応援してくれるファンのためではないでしょうか。
スポンサーは、その活動を支えてくれる大切な存在です。
だからこそスポンサーを大切にする必要がありますし、支援してもらった分を何らかの形で返していくことも必要でしょう。
しかし、スポンサーを大切にすることと、スポンサーの方向ばかりを見ることは違います。
選手が本当に見るべきなのは、ファンの方です。
ファンが増え、選手自身の価値が高まれば、スポンサーに返せる価値も大きくなります。
「スポンサーが付いたから宣伝しなければならない」ではなく、
「自分自身の価値を高めた結果として、スポンサーにも価値を返せる」
そんな関係の方が、選手にとってもスポンサーにとっても健全なのではないでしょうか。
おわりに
スポンサーを得ることはゴールではありません。
むしろ、そこからどう自分自身のブランドを育てていくかが重要です。
スポンサーへの義理を果たそうとして宣伝ばかりになり、選手本人の魅力が見えなくなってしまっては本末転倒です。スポンサーにとっても、選手自身の発信力が落ちてしまえば長期的にはメリットがありません。
スポンサー、選手、そしてファン。この三者にとって良い関係を作るためにも、「誰に向けてSNSを使っているのか」は一度考えてみてもいいと思います。
メーカーや店に搾取されて疲弊しないでくださいね。
プロとして競技を中心に据え、自分自身とファンを大切にしながら、ダーツ業界のために頑張ってほしいと思います。


