CUESOULのOTOとは何か 2BA・No.5との比較から読み解くダーツ・ポイント規格の現在地

ども、武器商人です。

推し活やガチャ要素など、各ダーツメーカーの“経済戦争”が激しさを増す一方で、実はダーツのチップ(ポイント)を巡る新商品でも、静かながら激しい競争が始まりつつあるのをご存知でしょうか。

少し前まで、スティールポイントといえば多様性が高く、大量生産にはあまり向かないパーツでした。(自作ポイントを使っているプレイヤーもいたくらいです。)ソフトダーツのチップに関しては、長らく2BAが事実上の覇権を握っていました。

ところが最近、このポイント周りに大きな変化が見られるようになってきました。今回はその流れについて、少し整理してみたいと思います。

また幸いなことに、このタイミングでCUESOUL様より、OTOという独自ポイント規格の商品をご提供いただきました。そこで本記事では、OTOを一つの軸としながら、現在のポイント勢力図やダーツポイントの規格史を振り返りつつ、この動きが何を意味しているのかを考えていきたいと思います。

ソフトダーツ主流の日本にも、スティールダーツへの流れが

日本では、2000年ごろからソフトダーツブームが始まったと言われています。プロツアーが本格的に立ち上がったのも、2000年代初頭です。一方で、スティールダーツ自体はそれ以前から行われており、ヨーロッパでは現在でもスティールダーツの方が主流となっています。

近年の日本では、ソフトダーツを主戦場としつつ、スティールダーツで世界を目指す選手がかなり増えてきました。

実際、ソフトダーツのプロツアーであるPERFECTやJAPANに参戦する上位選手の多くが、同時にPDCやWDFといった海外ツアーを意識して活動しています。また、D-Tour(FIDO使用)など、スティール寄りの大会に参加している選手も珍しくありません。

こうした流れに伴って、ひとつの「不便さ」が浮き彫りになってきます。

ソフトダーツとスティールダーツでは、ボードの素材もサイズも異なり、スローラインまでの距離も違います。極端に言えば、「まったくの別競技だ」と捉える人がいるのも不思議ではありません。

この事情は、実は商品開発やギア選びにも大きく影響しています。

シャフトやフライトについては、ソフト用・スティール用を使い分けている選手もいるかもしれませんが、基本的な構造自体は大きく変わりません。

一方で、最も大きな違いが出てくるのが、チップ(ポイント)です。

ポイントに見る「簡便化」と「併用化」の流れ

Target Swiss Point(ターゲット・スイスポイント)

世界的メーカーであるTarget社からは、スティールダーツ用バレルのポイントを簡単に交換できる仕組みとして、「Swiss Point(スイスポイント)」という規格が発表されています。

従来、スティールダーツのポイント交換(リポイント)は専用ツールが必要で、作業も手間がかかるものでした。Swiss Pointは、その工程を大幅に簡略化し、ポイント交換を容易にすることを目的としたシステムです。独自のポイントなのでスイスポイント対応バレルを購入する必要があります。

なお、Swiss Pointは本来スティールダーツ用のシステムですが、ソフトダーツ用バレルに「スイスポイントコンバーター」と呼ばれる変換パーツを装着し、ソフトバレルでSwiss Pointを使用しているプレイヤーも存在します。現時点では少数派ではあるものの、ソフトとスティールを併用するプレイヤーにとっては、実用的な選択肢となる可能性もあります。

Caliburn(カリバーン)Evoポイント(エヴォポイント)

Caliburn(カリバーン)のEvoポイントは、スティールダーツのポイント部分に「スピゴッド」と呼ばれるネジ式の土台を先に埋め込み、そのスピゴッドにポイントを装着するという、二段階構造の仕組みを採用しています。

初回のみ、専用ツールを使ってスピゴッドをバレル内部に埋め込む必要がありますが、一度セットしてしまえば、その後はスティールポイントの着脱を比較的容易に行えるのが特徴です。

また、Evoポイントにはソフトダーツ用のポイントも用意されており、スピゴッドを共通の土台として、スティール用ポイントとソフト用ポイントを付け替えて使用することが可能です。そのため、ソフトダーツとスティールダーツを併用するプレイヤーにとって、実用的な選択肢として注目を集めています。

CUEOUL OTOポイント

CUESOULのOTOポイントは、2BAよりも細い独自のネジ規格を採用し、スティール用ポイントとソフト用ポイントを、できるだけ同じ形状・同じ感触で使用できるよう設計されたポイントシステムです。

ソフトダーツとスティールダーツでポイント形状や重量差が生じることによる投げ感の違いを抑え、「付け替えても感覚が変わりにくい」ことを主眼に置いた設計思想が特徴と言えるでしょう。

OTOは独自規格であるため、使用するにはOTO対応の専用バレルを購入する必要があります。ただし一度OTOバレルを用意してしまえば、その後はスティールポイントとソフトポイントをネジ式で簡単に付け替えることができ、特別な工具を使わずに両方を併用できる点が大きな強みです。

過去の独自ポイント規格(4BA・No.5)

ここからCUESOULのOTOポイントのレビューに入る前に、過去のポイント規格の歴史を振り返っておくことは有意義だと思います。

過去には、4BANo.5といった独自ポイント規格が登場し、一定のシェアを獲得した時期もありました。しかし近年では、以前ほどの勢いは見られなくなっています。

これらの規格には共通点があります。それは、スティールダーツに近い投げ感をソフトダーツでも実現したいという設計思想です。特に、前重心バレルを作りやすくするという点が、大きな狙いだったと考えられます。

4BA(凸ネジ)

現在、ソフトダーツの主流となっている2BAは凹ネジですが、それとは逆に凸ネジを採用した規格が4BAです。AcuteやSleekと呼ばれることもあります。

本来の想定用途とは異なりますが、スティールバレルのポイントを抜き、4BAネジを埋め込んで4BA化する加工を行っていたプレイヤーも存在しました。

ネジの形状自体は異なるものの、**「ポイント周りの構造を変えて投げ感を調整する」**という考え方は、Swiss PointやEvoポイントの思想とも近い部分があると言えるかもしれません。

凸ネジ構造になることで、ソフトダーツのバレルでは実現しづらかった前重心設計を作りやすくなる点が、4BAの特徴でした。

No.5(ナンバーファイブ)

No.5は、2BAよりも細い凹ネジを採用したポイント規格です。ネジ径が細くなることで、バレル先端をくり抜くタングステン量を抑えることができ、結果として前重心バレルを設計しやすくなります。

この点において、考え方としてはCUESOULのOTOポイントに近いと言えるでしょう。2BAより細いネジ規格を採用することで、ポイント周りの重量バランスや形状をコントロールしやすくする、という発想は共通しています。

CUESOUL OTOのご紹介

さて、ここからCUESOULのOTOポイントの紹介に入っていこうと思います。
……といっても、だいぶ遠回りをしましたね。

ただ、ここまで見てきた流れを踏まえると、OTOがどのような位置づけのポイントなのかが、より立体的に見えてくるはずです。

先ほどの説明からも分かる通り、CUESOULのOTOポイントは、設計思想としてはNo.5に近く、2BAよりも細いネジ山を採用したチップとなっています。

バレル部分の削りもだいぶ細くなっているのがわかります。

また、OTO対応のバレルを1セットご提供いただいたのですが、このように、バレルの他にフライト、OTOスティールチップ、OTOソフトチップ、OTOダーツツールが同梱されており、別途他の商品を購入する手間を省こうとする工夫が見られます。

次に、No.5との比較を行います。ネジ系はほぼ同じでピッチが違って互換性はありませんが、重さなどは近いでしょう。

CUESOUL OTOの象徴とも言えるボリス・カリチュマー選手

世界的に高い人気と実力を兼ね備えたボリス・カリチュマー選手が、今年からCUESOULと契約しました。

ボリス選手は、これまでソフトダーツを主戦場として活躍してきましたが、近年ではWDFやPDCなど、スティールダーツの大会にも参戦しており、いずれの舞台でも第一線で活動しています。

特筆すべきなのは、ボリス選手が以前、ソフトダーツ用バレルにコンバージョンポイントを装着し、スティールダーツの試合に出場していた点です。ソフトダーツを基盤にしながら、そのままの感覚でスティールダーツに挑む選手は、トップレベルでは決して多くありません。

その背景には、ソフトダーツ用ティップとスティールダーツ用ポイントでは、重量や形状、投げた際の感覚に大きな違いがあり、両者を併用すること自体が難しいという事情があります。

そのボリス選手が、CUESOULと契約して以降、OTOポイントを使用しています。
僕個人の見立てでは、CUESOULのOTOという商品そのものが、ボリス選手、あるいはボリス選手と同じ発想でソフトとスティールを行き来するプレイヤー層を強く意識して開発されたのではないか、と感じています。

CUESOUL OTOの評判は?今後は?

CUESOULのOTOポイントについて、SNSなどでいくつか投稿を行い、そこに寄せられたコメントや反応を整理してみました。現時点で見えてきた意見は、主に次のようなものです。

  • 細いネジ規格なので、前重心や先端の細いバレルを作りやすそう

  • 最近はNo.5対応の商品が少ないため、その代替として検討したい

  • 独自規格である点が少し気になる

全体として見ると、
設計思想や可能性を評価する声と、
独自規格であることへの慎重な見方が、ほぼ半々といった印象です。

CUESOUL OTOが独自規格という点についての懸念

確かに、冒頭でも述べたように、過去には4BAやNo.5といった独自ポイント規格が存在しましたが、近年ではいずれも勢いが落ちてきているのが現状です。加えて、物価高の影響により、ダーツバレルの価格は全体的に上昇傾向にあります。

ソフトダーツ市場においては、圧倒的な主流である2BAモデルは当然としても、そこに4BAやNo.5といった別規格のバージョンを並行して展開することは、メーカーにとって年々難しくなりつつあります。生産コストや在庫管理の負担を考えると、複数規格を同時に維持するハードルは確実に上がっています。

こうした背景を踏まえると、
CUESOULのOTOも、同じような運命を辿るのではないか?
という疑問が浮かぶのは自然な流れでしょう。

では、CUESOULは今後、バレル展開をどのように進めていくのでしょうか。

現時点ではまだ読み切れない部分も多いものの、
・2BAとOTOを並行して扱っていく
・将来的にOTOへ一本化していく
といった、いくつかのシナリオが考えられます。

このように考えると、CUESOULのOTOは、独自ポイント規格戦争を仕掛けている存在と捉えることもできるかもしれません。一見すると、勝ち目の薄い戦いに見えますが、僕自身は必ずしも悲観的には見ていません。

独自ポイント規格同士の競争になった場合、ものを言うのはやはり生産力とスピードです。CUESOULは、短期間で新しい商品を開発し、次々とリリースしていく点において、日本企業にはあまり見られないスピード感を持っています。

場合によっては、正面作戦として独自ポイント規格戦争に挑み、一定のシェアを獲得する可能性も十分にあると感じています。

なお、CUESOULの企業戦略やビジネス展開については、以下の別記事で詳しくまとめています。

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CUESOULの最大の強み「オーダーバレル」

ここまで、CUESOUL OTOを使用しているボリス・カリチュマー選手の存在や、独自ポイント規格戦争という視点について触れてきました。

では仮に、
・ボリス選手の人気が思ったほど盛り上がらなかったら?
・将来的にボリス選手モデルのバレルが2BAのみの展開になったら?
・独自ポイント規格戦争で、OTOが十分なシェアを取れなかったら?

そうした不安を感じる方もいるかもしれません。

しかし、その点については、過度に心配する必要はないと僕は考えています。

というのも、CUESOULはオーダーバレル事業にも非常に力を入れているメーカーだからです。CUESOULのオーダーバレルは、他社と比較してもリーズナブルな価格帯で提供されており、規格についても2BAだけでなく、OTOにも対応しているとされています。

つまり、仮にOTOが独自ポイント規格戦争の中で主流にならなかったとしても、OTOという規格そのものが即座に消滅する可能性は低いと言えます。オーダーバレルという受け皿がある限り、必要とするプレイヤーに向けて供給し続けることができるからです。

(※オーダーバレル事業そのものが終了しない限り、という前提にはなりますが。)

まとめ:OTOは「勝つ規格」ではなく「残る規格」かもしれない

ここまで、ダーツポイントを巡る最近の動きを、
・ソフトダーツ主流の日本市場
・スティールダーツへの流れ
・過去の独自規格(4BA・No.5)
・Swiss PointやEvoポイントとの思想的違い
・そしてCUESOUL OTOという新しい選択肢

こうした観点から整理してきました。

結論から言えば、CUESOULのOTOは、単純に「覇権を取るかどうか」で評価すべき規格ではないと思います。

確かに、OTOは独自規格であり、2BAという圧倒的な主流規格を前にすれば、簡単な道ではありません。過去に4BAやNo.5が歩んできた歴史を見れば、「また同じ道を辿るのではないか」と警戒するのも自然です。

一方で、OTOにはこれまでの独自規格にはなかった条件も揃っています。

・ソフトとスティールを同じ感覚で行き来したい、という明確な需要
・ボリス・カリチュマー選手という象徴的な存在
・短期間で商品を投入できるCUESOULの生産力とスピード
・そして、OTO対応オーダーバレルという“逃げ道”

これらを踏まえると、OTOは「市場を一気に塗り替える規格」というよりも、必要とするプレイヤーに向けて、細くても確実に残り続ける規格になる可能性を感じます。

つまり、
勝つか負けるか、
主流になるか消えるか、
という二択で見ると見誤る。

OTOはその中間にある、
新しい立ち位置のポイント規格なのかもしれません。

今後、CUESOULが2BAとOTOをどう使い分けていくのか、あるいはどこかで舵を切るのかは、まだ分かりません。ただ少なくとも、OTOは「過去の失敗と同じ理由だけで片付けられる存在」ではなくなっている、という点は確かだと思います。

ソフトダーツを基盤にしながら、スティールダーツにも挑戦したい人。
規格そのものより、投げ感や一貫性を重視したい人。

そうしたプレイヤーにとって、OTOは今後も注目すべき選択肢の一つであり続けるはずです。