ダーツはギャンブルか?海外文化と日本の法律から考える

ども、武器商人です。

この記事では一般的に誤解を生む、ダーツ=ギャンブルという点について詳しく書いて行こうと思います。

ダーツ=ギャンブルではない

一般的にギャンブルとは、金銭や物品などを賭け、偶然によって勝敗が決まり、その結果として利害が動く行為のことです。記号的に言えば、じゃんけんでもサイコロでもギャンブルの対象になるし、極端な話、競技の種類は問いません。ダーツも“ゲーム性の高さ”という点ではギャンブルの対象になり得る競技です。

ただし、日本では刑法によって賭博が禁じられているため、仮に「賭けダーツ」を行っている人がいたとしても、法律上は違法性を帯びる可能性があります。つまり、ダーツそのものはギャンブルではないけれど、“金品を賭け始めた瞬間”に賭博行為になってしまうということです。

ここで誤解してほしくないのは、「ダーツという競技」や「ダーツバーという場」がギャンブルを行っている、という印象は正しくないという点です。もしそういったイメージを持っている方がいたら、その誤解はぜひ解いておきたいです。

この構造は、麻雀の状況とよく似ています。雀荘に行ったことがない人は、「雀荘=賭けをする場所」というイメージを持ちがちですが、実際には必ずしもそうではありません。もちろん、賭け行為をして逮捕されるケースは事実として存在しますが、それが“当たり前”というわけではありません。ダーツも同じで、場や競技そのものがギャンブルなのではなく、あくまで“賭けるという行為”が問題になるというだけです。

実際のダーツバーはいたって普通のバー(パブっぽいイメージ)ですよ。ダーツ台が置いてあるだけで。

ダーツ=ギャンブルのイメージが強いのはなぜか?

ダーツを長く続けていると誰でも実感することですが、ダーツはかなり実力がものを言うスポーツです。

ただ、一般的には次のようなイメージを持たれやすいと思います。

  • 運要素が一部ある

  • 飲酒文化とセットになっている(バー文化=ギャンブルの場という偏見)

  • 初心者でも偶然勝てる瞬間がある(偶然性=ギャンブル性という誤解)

麻雀やポーカーのように、プロであっても運次第で普通に負けるゲームもありますが、ダーツはそれとは違います。
もちろん、ダーツが弾かれたり、ワイヤーに当たって不利になる“アンラッキー”はありますが、それでもほとんどは実力で決まる競技です。僕の肌感覚では、98%くらいは実力だと思っています。

そして、ダーツの「実力スポーツ性」を象徴するような面白い逸話があります。

イギリスの大衆紙 The Guardian では、1908年にリーズのパブで「ダーツは運任せの遊びではなく、技術の競技である」と証明しようとした店主が裁判に立った……というエピソードが紹介されています。

その話によると、地元のプレイヤーが法廷で実際にダーツを投げ、何本も同じ場所に刺し続けることで、

「これは運ではなく、明らかに技術を要するゲームである」

ということを裁判官に示したのだそうです。

この出来事が“本当に裁判記録として残っているかどうか”には諸説ありますが、少なくともイギリスでは、

「ダーツは運ゲーではなく技術のスポーツである」

という認識が広まるきっかけになった出来事として語り継がれています。

このエピソードからもわかるように、ダーツは運の要素もゼロではないものの、長くプレイしていると“実力が9割以上を占める競技”だということがよく理解できます。

(参考:The Guardian, “Joy of six: darts”, 2012)

 

賭けダーツはありなのか?

実は、日常生活の中で「負けたらご飯おごりね」「ジャンケンで飲み代決めよう」みたいな軽い賭け事はよく見かけますよね。それと同じように、ダーツでも「負けたら1杯奢る」というレベルのノリは珍しくありません。

ただし、ここには少し誤解が生まれやすいポイントがあります。

日本の刑法では、“金品を賭けて勝敗を争う行為は基本的に賭博” とされています。
金額が少なくても、多くても原則は同じです。

そのうえで、実務的には「一時の娯楽の範囲内の軽い飲食の奢り」であれば、警察も問題にしないケースがほとんどで、過度に神経質になる必要はありません。
いわゆる“ドリンクマッチ”が許容されているのはこのためです。

とはいえ、高額なシャンパンを奢らせる とか、
店側が煽る形で賭けをさせる となると話は別です。
実際にトラブルや事件になっているケースもあります。

そして、お金を賭ける場合はさらに注意が必要です。
金額の大小に関わらず、現金を賭ければ賭博罪の成立を疑われます。

「じゃあ1000円くらいならいいの?」と思うかもしれませんが、それもNG。
継続していけば金額は積み重なるし、“日常の軽い奢りの範囲”とは言えません。
現金を賭ける行為は基本的にアウト と覚えておくのが安心です。

要するに、

  • 軽い飲食の奢り → 現実的には許容されやすい

  • 現金を賭ける → 金額に関係なくNG

というラインを理解しておくと、賭けダーツの境界線が見えてきます。

賞金トーナメント(ハウストーナメント含む)はどうなのか?

ここまでご紹介してきた「軽い賭けダーツ」は、どちらかというと友人同士やお店の常連さんなど、限られた範囲の話でした。

では、不特定多数の参加者から参加費を集め、勝者に賞金が出る「賞金トーナメント」はどうでしょうか?

テレビのバラエティ番組やスポーツ中継で賞金制の大会を見る機会が多いので、「賞金トーナメント=問題なし」というイメージを持っている方も多いと思います。
また、賭博と言うと“反社会的勢力の博打”のような場面をイメージする人がまだまだ多く、スポーツや競技の賞金と結びつかないという方もいるでしょう。

しかし実は、この賞金トーナメントという形式は、法律上かなり注意が必要な領域なんです。
賭博も、賞金トーナメントも、法律上は同じ根拠法(刑法や景品表示法など)で規制されるため、運営方法によっては賭博とみなされる可能性が出てきます。

もちろん、PERFECTやJAPANといったプロツアーは、各法令に沿って制度設計されていますので、そこで賞金が出るのは問題ありません。
ただし、同じような賞金形式を一般店舗が安易に真似すると、場合によっては法律上の問題が発生する可能性があります。

その理由としては、

  • 参加費の扱い

  • 賞金の原資

  • 景品表示法の「景品類の上限」

  • 風営法上の位置づけ

  • 主催者と参加者の関係性

など、複数の法令が絡み合うため、かなり複雑だからです。

そのため、「テレビで賞金出てるからOKでしょ」「プロツアーと似た形式なら問題ないでしょ」という感覚で開催してしまうと、思わぬ落とし穴にハマる可能性があります。

このあたりの話は、ひとつの記事では説明しきれないほど法制度が入り組んでいますので、詳しくは別記事にまとめています。
興味のある方は以下をご覧ください。

ダーツの大会(ハウストーナメント含む)の賞金についての法規制 | 風営法、景品表示法、刑法との関連
賞金を禁止する3つの規制 前提として罪刑法定主義 風営法23条 景品表示法 刑法185条の賭博罪 根拠条文は刑法185条 賭博罪の保護法益 賭博罪の成立要件 『偶然の支配』による財物の得喪 相互的得失の関係

【余談】海外では賭博と賞金トーナメントは扱いが違う国も

少し余談ですが、海外では“賭博”と“賞金トーナメント”の扱いが日本とはまったく異なる国もあります。

たとえば、プロゲーマーとして有名な梅原大吾さんをご存じでしょうか?
彼が優勝した格闘ゲームの世界大会「EVO(Evolution Championship Series)」は、参加費がそのまま賞金の原資になっていると言われています。

また、ポーカーの大会でも同じように、集めた参加費を賞金として分配する方式が一般的な国があります。

しかし、これをそのまま日本でやった場合、日本の法律ではNGです。
海外では普通に受け入れられている仕組みなのに、日本ではアウトになる──少し皮肉な話ですよね。

もともと日本の刑法における賭博罪は、反社会的勢力の資金源を断つ目的が強い法律でした。
その背景を考えれば、「健全なエンタメ産業としての賞金トーナメント」まで規制する必要は本来ないはず……と感じる方も多いと思います。

しかし現状では、

  • 日本の法制度

  • 過去の判例

  • 行政運用の慣習

これらによって、賞金トーナメントも賭博と同じ枠組みで取り扱われるという状況になっています。

本当は、反社排除の目的を守りつつ、健全な賞金トーナメントは産業として認めていくような新しい制度設計ができれば良いのですが……現実にはなかなか難しいのが現状です。

スポーツベッティングについて

ここまでは「参加者がお金を出し合うタイプの賭け事」について触れてきました。
次は、**競技者の勝敗に対して観客がお金を賭けるタイプの“スポーツベッティング”**についてです。

ヨーロッパでは、このスポーツベッティングが広く合法化されており、ダーツもその対象になっています。
PDCの試合では普通にオッズがつき、ブックメーカーで選手の勝敗やレグ数にお金を賭けることができます。

アメリカも州によって規制が異なりますが、近年はスポーツベッティングの合法化が進み、規制が緩む方向にあります。世界的に見ると、“スポーツは観戦だけでなく賭けの対象にもなる”という文化が広がっている流れがあります。

一方、日本のスポーツ分野で合法的に賭けられるのは、特別法で定められた公営ギャンブルだけです。

  • 競馬

  • 競輪

  • オートレース

  • 競艇(ボートレース)

さらに、スポーツ振興くじ(toto)という枠組みがあり、近年はサッカーだけでなくバスケットボールも対象に加わりました。
つまり、日本でも“合法的にスポーツに賭ける仕組み”は存在します。

しかし、ダーツはこの枠組みに含まれていません。
そのため、日本国内でダーツの勝敗にお金を賭ける行為は違法という扱いになります。

とはいえ、世界的なトレンドとしてはスポーツベッティングの合法化が進んでおり、日本国内でもtotoの対象が増えるなど、風向きが少しずつ変わっているのも事実です。

旧来の賭博罪が守ろうとしてきた“反社会的勢力の資金源の排除”という目的はもちろん尊重されるべきものですが、その一方で、健全なスポーツベッティングをどう位置づけるかという議論は、今後の日本でも必要になってくるかもしれません。

「ダーツも安全にベッティングできる未来」が来たら面白いのになぁ……と、個人的には思っています。

まとめ

本記事では、「ダーツとギャンブル」というテーマを文化的な側面から見てきました。
ダーツは、偶然性が少しあるスポーツであり、バー文化と結びついていることもあって、“ギャンブルっぽい”印象を持たれやすい競技です。
しかし本質としては、長く続けるほど実感するように、実力が結果に直結する技術スポーツです。

そして、スポーツとしての価値が高まるほど、本来であれば競技者に正当にリターンが返る仕組み──つまり賞金トーナメントの重要性も増していきます。
ところが日本では、その賞金制度をめぐって法制度が大きな壁になる場面があります。

・参加費を賞金の原資にする形式には注意が必要
など、賞金トーナメントを成立させるうえで押さえておくべき点がいくつか存在します。

また、海外ではダーツがスポーツベッティングの対象になっている国が多く、試合にオッズがつくことも珍しくありません。
一方、日本では公営ギャンブルの枠外であるため、ダーツに対するベッティングは認められていません。
こうした 文化的背景と法制度の違い が、「ダーツはギャンブルなのか?」という誤解を生みやすくしているのだと思います。

この記事で、その点について少しでも理解が深まればうれしいです。
そして、将来的に日本のダーツがどのように発展していくにせよ、守るべき価値観は守り、変えるべき価値観は変えながら、より良いダーツ業界になっていってほしいと思います。