ども、武器商人です。
昨今の物価高は、ダーツ業界も例外ではありません。「このご時世だから仕方ない」「メーカーも頑張っているし」と思いたい気持ちもありますが、僕には以前から引っかかっている懸念があります。
それは、最近よく聞く“推し活”という文化がダーツ業界で特に強く浸透し、バレルが推し活商材として扱われ始めていることです。
一見すると良いように見える流れですが、ここに業界全体を歪ませる大きな構造問題が潜んでいると感じています。
スポンサーの王様――バレルメーカー
JAPANのコンストラクターズ、PERFECTのBRANDS(2025年開始)など、スポンサー企業を評価する制度があります。分類されるのは「バレル・フライト・アパレル」の3種ですが、この中で“スポンサーの王様”となっているのがバレルメーカーです。
選手紹介でも、所属団体に続いて名乗られるのはバレルスポンサー。それだけ、バレルメーカーは選手にとって欠かせない存在ですし、ブランディングの肝にもなってきます。
しかし、本来“製造業”であるバレルメーカーは、性能と価格競争が基礎となるはずの市場です。ところが現在、推し活文化の拡大により、製造業の競争原理がそのまま通用しない“歪んだ市場構造”になりつつあります。
機能的価値と情緒的価値
商品の価値は、マーケティングでは大きく次の2つに分類されます。
機能的価値(Functional Value)
重さ・形状・素材・精度など「性能」や「使いやすさ」から得られる価値。バレルでいえば、重量、バランス、グリップ感、カット、タングステン比率などが該当します。
情緒的価値(Emotional Value)
デザイン、ブランド、推し選手モデル、限定感など「感情」「所有欲」を満たす価値。推し活的要素もこの分類に含まれます。
本来バレルは機能的価値が主役の精密スポーツ用品ですが、現在は情緒的価値が急拡大し、市場構造を左右し始めています。
その結果、シグネチャーモデルの乱発、ガチャの投げ売りなどの副次的な問題が生まれ、SNS上の不満も目立ち始めています。
タングステン――競技用バレルに不可欠な希少金属
この記事の読者は、おそらくタングステンバレルについて詳しいはずなので説明は省略します。
ここ最近、原材料・加工費・輸送費などあらゆるコストが上昇していますが、特にタングステン価格の高騰は顕著です。
メーカーも努力していますが、機能的価値 × 情緒的価値 × 希少資源 という三重構造が価格の正常化を難しくしています。
本来「より良い商品を、より安く」というのが製造業の原則ですが、情緒的価値が暴走するとこの原則が機能しなくなります。
推し活では「たくさん買った人が強い」「高いほうが偉い」といった価値観が生まれやすく、これがタングステンの需給バランスにまで影響し始めているのです。
スポンサーと選手の利害対立
ドライに言うと、スポンサー(メーカー)と選手の利益は基本的に対立します。
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スポンサー:できるだけ少ないコストで売上を最大化したい
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選手:できるだけ少ない負担で高い報酬を得たい
両者のバランスが一致したところでスポンサー費が決まりますが、ここで疑問が生まれます。
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本当にバレルで稼ぐ必要があるのか?
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推し活の中心をタングステンに据える必要があるのか?
本来バレルは機能的価値が主役であり、情緒的価値は別のグッズでも提供できます。
バレルの「機能的価値」を高める健全な取り組み
メーカーは推し活に寄っているだけではありません。市場の歪みを理解し、改善しようとする取り組みも増えています。
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中古バレルの買取・販売
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試投会の増加
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オーダーバレルの制作
いずれもタングステンが無駄に製造・使用・販売されないようにするための取り組みで、必要とする人に機能的価値を届けるための仕組みです。
推し活グッズを「バレルから切り離す」健全な流れ
推し活文化を否定するつもりはありません。
しかし、情緒的価値の受け皿はバレル以外でも成立します。むしろ希少資源が必須のバレルとは相性が悪いとさえ思います。
アクキー、タオル、カード、うちわなどでも十分に推し活は成立しますし、なんならデジタルコンテンツでも良いでしょう。これらは希少資源を消費しないため、誰も損をしません。推し活として非常に健全です。
バレルは無理して買わないでくださいね
推し活したい気持ちは尊いものですが、「高いバレル=推しへの貢献」という考えは、今のご時世、業界全体を疲弊させる可能性すらあります。選手側も、高額商品を買わせることに引け目を感じているはずです。
だからこそ、「高いバレル or 高いタオル」で迷ったら……
迷わず、タオルやアクキーを買いましょう。
バレルは、絶対に自分の投げやすいものを選ぶべきです。
選手も、自分のバレルを本当に気に入ってもらえたら嬉しいと思いますが、無理をして使われても良いことはありません。
選手は競技者であり、アイドルではない。合わないバレルを使うつらさは一番理解しているはずです。
まとめ
ダーツのバレルは本来、機能的価値が中心の精密スポーツ用品です。しかし推し活文化の急成長により、情緒的価値の比重が高まりすぎ、価格や需給に歪みが生まれています。
メーカーの改善努力や推し活グッズの多様化は良い流れです。大切なのは、推し活文化が暴走しないこと。そして希少金属であるタングステンが無駄に消費されないこと。
このバランスを取らなければ、バレルの価格は無限に上がり、プレイヤーの負担だけが増えます。さらに、ライト層のマイダーツ購入のハードルが上がり、ダーツ人口増加の妨げになる可能性すらあります。


