ソフトダーツのプロは、現在 JAPAN と PERFECT をあわせると、およそ3000人規模にまで増えていると言われています。これは、ソフトダーツのプロツアーが始まって以降、非常に速いペースで拡大してきた結果です。
プロ選手の多くは「スポンサーを付けたい」「活動を評価してもらいたい」と考えていると思いますが、プロ人数の大幅な増加にともない、スポンサーと選手の関係性そのものも、大きく変化しつつあります。
人数が増えたことで、競技スタイルやキャラクター、活動の仕方はより多様になりました。同時にダーツ人口も増え、ファンやユーザーのニーズも細分化しています。
一方で、スポンサー側がそうした多様なニーズを十分に把握し、対応しきれていない場面があるのも事実です。
このズレこそが、現在のダーツ業界における「スポンサーが付く選手」と「付かない選手」を分ける一因になっていると感じています。
マーケティングやブランディングは自分でやったほうがいい
ダーツ選手に対して、「ブランディング」や「情報発信」の重要性を説く声はよく聞きます。
それ自体については、僕も同意します。
ただし、それらはあくまで手段であって、もう一段階手前の視点が抜け落ちがちだと感じています。
それは、ニーズの把握です。
ユーザー、つまりファンは何を求めているのか。どこに価値を感じているのか。この調査と整理こそが、本来の意味でのマーケティングだと思います。そして、しっかりとニーズを把握したうえでブランディングを行ったほうがよい。
先ほど、スポンサーが多様化したニーズを十分に把握しきれておらず、そのズレが「スポンサーが付く選手」と「付かない選手」を分けている、と書きました。
だからこそ、マーケティングはスポンサー任せにせず、自分でやったほうがいい、というのが僕の考えです。
わかりやすく具体例を挙げます。
僕はダーツ業界では「ダーツ×ギャル」という文脈で覚えられていることが多いです。ただし、ギャルという存在自体は以前から普通にありましたし、ダーツ業界にもギャルっぽいプロ選手はたくさんいました。つまり、僕が先駆者というわけではありません。ブランディングやマーケティングの対象となる素材そのものは、すでに存在していたのです。それを明確な売りとして打ち出している選手はいなかったというだけなのです。
もし、スポンサー側が「ダーツ×ギャル」という切り口でマーケティングやブランディングを行うとしたらどうでしょうか。このテーマはリスクが高く、企業側から積極的に打ち出すのは簡単ではありません。これは個人の好き嫌いの問題ではなく、市場がそれだけ多様化し、細分化しているという背景があります。
ところが、最初から「ダーツ×ギャル」というイメージでSNS上に認知されている選手がいたらどうでしょうか。スポンサー側としては、そのイメージを前提にグッズを作ったり、イベントを企画したりすればよくなります。ゼロから方向性を作る必要がなくなり、判断もしやすくなります。
実は、マーケティングやブランディングには時間もお金もかかります。そのうえ、必ずしも見合ったリターンが得られるとは限りません。スポンサー側がブランディングを主導しようとすると、イメージに合う選手を探すところから始まり、その選手が狙い通りに動いてくれるかどうかも分かりません。
その点、すでにブランディングが確立されている選手は、スポンサーにとって非常に期待しやすい存在です。
どんな価値を提供できるのかが分かりやすく、リスクも読みやすい。
だからこそ、マーケティングは「やってもらうもの」ではなく、「自分でやったほうがいい」のです。
コトラーのマーケティング理論は役立つ
古典的なマーケティング理論として知られているものに、「コトラーのマーケティング」があります。実は、この書籍に書かれている内容は、ダーツ業界でも非常に役に立ちます。
すでに有名な理論なので、ネット上でマーケティングについて調べたことがある人であれば、コトラーのマーケティングを土台にした考え方や用語に、どこかで触れたことがあるかもしれません。知らず知らずのうちに、その影響を受けた記事を読んでいる可能性も高いと思います。
とはいえ、原典となる書籍に一度目を通しておくことは、長い目で見ると意味があります。
マーケティングを「テクニック」ではなく「考え方」として理解できるからです。
ただし、正直に言うと、内容はかなり本格的で、すべてを読み切るのは簡単ではありません。そのため、漫画版や要点を整理した解説書などを使って、全体像をつかむ程度でも十分だと思います。
重要なのは、細かいフレームワークを暗記することではなく、
「なぜその考え方が必要なのか」「どういう順番で考えるのか」
という考え方を学ぶことです。
セグメントとポジショニングという考え方
コトラーのマーケティングで、特に役立つのが「セグメント」と「ポジショニング」という考え方です。
セグメントとは、市場を細かく分けて考えることです。
ダーツで言えば、
・競技志向のプレイヤー
・エンジョイ勢
・観戦がメインのファン
・推し活を楽しむ層
といった具合に、関心や価値観によってユーザーは分かれています。
さらに言えば、推し活をする側だけでなく、推される側の選手も細かく分かれていきます(セグメント化されます)。
たとえば、コスプレイヤータイプの選手、ギャル系の選手、地元密着型の選手などです。
重要なのは、「すべての人に好かれようとしない」ことです。
ダーツ人口が増え、市場が多様化している今、全方位を狙えば狙うほど、メッセージは薄まってしまいます。
そこで必要になるのが、ポジショニングです。
これは、「どのセグメントに対して、どういう存在として認識されたいか」を決めることです。
たとえば、「ダーツ×ギャル」という切り口は、
競技のストイックさよりも、
・ビジュアル
・雰囲気
・応援する楽しさ
といった価値を重視する層に向けたポジショニングだと言えます。
このように、自分がどのセグメントに向けて、どんな立ち位置を取るのかを明確にすることで、
スポンサーにとっても「何を期待できる選手なのか」が分かりやすくなります。
少し話をずらすと、「若い女子選手はスポンサーが付きやすくていいよね」といった雑な意見を目にすることがあります。
たしかに、統計的に見れば、そうした傾向があるのは事実です。ただし、それがすべてではありません。
若い女子選手であることが強みになるなら、使わない手はありません。
しかし、そうでない場合に、あきらめる必要はありません。
自分の強みを理解し、それを生かしたポジショニングを取ればいい、というだけの話です。
イベントを盛り上げるのが得意な選手もいますし、MC(司会)が上手な選手もいます。
POP制作やSNS告知が得意な選手、YouTubeやTikTokで反響のある動画を作れる選手、
芸人のように場を和ませるのが上手な選手もいます。
整体の専門知識を持っていたり、ダーツレッスンが得意な選手もいますよね。
何ができるのかを考えながら、自分に合った立ち位置を取っていくことが重要です。
できないものは、無理にできなくて構いません。
できないことを克服しようとする努力を否定はしませんが、
今持っている武器で戦うという選択も、同じくらい大切です。
セグメントとポジショニングは、派手なテクニックではありません。
ですが、スポンサーが選手を評価するときの前提を整える、非常に実用的な考え方です。
ぜひ、一度、自己分析をしてみてください。
マーケティングができる選手は期待されやすいし報酬も高い
スポンサーが選手に期待しているのは、「活躍してくれたら嬉しい」という曖昧な希望だけではありません。
もっと現実的な話をすると、どういう結果が、どのような形で返ってくるのかを想像できるかどうかを見ています。
僕自身、PERFECTの選手のスポンサーをしていたことがありますし、選手やスポンサー側の方々と話す機会も数多くあります。
そこで感じるのが、グッズ販売やイベントといったものは、売上が非常に不定で、事前に読みづらいという点です。
それにもかかわらず、スポンサー側は、売上の大小に関係なく、一定の支援を行わなければなりません。
つまり、読めない売上を前提に支援を決めるという構造になっています。
だからこそ、スポンサー側としては、報酬を低めに設定せざるを得ない、という事情があります。
マーケティングができる選手は、この点で非常に期待されやすい存在です。
報酬についても、ある程度高めに計算しやすくなります。
なぜなら、自分が「どんな人に対して」「どんな価値を提供できるのか」を、ある程度言語化できているからです。
たとえば、
・どんな層に支持されているのか
・どういう文脈で名前が認知されているのか
・大会、イベント、SNSなどで、どういう役割を果たせるのか
こうした点が整理されていると、スポンサー側は「この選手に何を任せればいいのか」を具体的に考えやすくなります。
逆に言えば、競技力が高くても、
・どんなファンが付いているのか分からない
・どう扱えばいいのかイメージできない
・何を期待すればいいのかが曖昧
という状態では、スポンサーとして判断が難しくなります。
これは能力の問題ではなく、判断に必要な情報が足りないというだけの話です。
マーケティングができる選手は、自分自身を「どう使ってもらうか」という視点を持っています。
そのため、スポンサーとのミスマッチが起きにくく、結果として長期的な関係を築きやすくなります。
期待されやすいというのは、特別扱いされるという意味ではありません。
期待値が読みやすいということです。
スポンサーにとって、先が読める存在であること。
それ自体が、大きな価値になります。
まとめ|マーケティングは「派手なこと」をやるのではなく、自分と向き合い整理すること
ダーツにおけるマーケティングは、何か特別なことをする話ではありません。
SNSでバズることや、無理にキャラクターを作ることが目的でもありません。
まず大切なのは、自分がどんな人に、どんな価値を提供できるのかを整理することです。
それは、競技力だけでなく、人となりや得意なこと、関わり方まで含めた話です。
プロ選手の人数が増え、スポンサーやファンのニーズが多様化している今、
「誰にでも当てはまる正解」はありません。
だからこそ、自分自身をどう位置付けるのかを考える必要があります。
マーケティングができる選手が期待されやすいのは、
特別な才能があるからではなく、期待値を読みやすくしているからです。
スポンサーにとって先が読める存在であることは、それ自体が大きな価値になります。
できないことを無理にできるようにする必要はありません。
今持っている武器を理解し、それをどう生かすかを考える。
それが、ダーツにおけるマーケティングの本質だと思います。
その考え方を身につけるうえで、コトラーのマーケティングに関する書籍を一度読んでみるのも有効です。
すべてを理解する必要はありませんが、マーケティングを「テクニック」ではなく「整理のための思考」として捉える視点は、長い目で見て必ず役に立ちます。

